森里川湖をめぐるストーリー 3
[2024年6月11日]
ID:17377
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このコラムは、鈴鹿の森から始まり、森里川湖を通じて人と自然がつながっていることを感じていただくものです。
琵琶湖に生息するビワマスは、この湖だけにすむ固有種で、とてもおいしい魚です。湖を回遊しながら主にコアユを食べ、4年ほどで50センチメートル以上になります。秋になると、ビワマスが鈴鹿の森の小さな谷川で見られるようになります。愛知川を数十キロメートルもさかのぼってやって来たのです。静かにその様子を見ると、雄は顎が鋭く折れ曲がり、体側は黒紫色の模様をしています。雄の前にはお腹が少し膨れた雌がいて、体を横にしながら川底を掘って産卵の準備をしています。しばらくすると雌の横に雄が並んで産卵が行われます。産卵後、雌が受精卵を砂礫で埋め戻し、翌春、稚魚が泳ぎだすまで長い時間がながれます。
鈴鹿の雪が消える3月頃、そっと谷川をのぞいてみると、ビワマスの稚魚たちは群れながら、流下する昆虫に飛びつく姿があります。6月頃までに7センチメートル以上に育った幼魚は、雨で増水した愛知川を下って琵琶湖へ戻っていきます。この時、自分の生まれ育った谷川を、産卵に再びやってくるまで記憶するものと思われます。
ビワマスは、鈴鹿の森で数十万年にわたってこのような生活を毎年続けてきました。鈴鹿の森に育まれた清流があることを信じ琵琶湖から愛知川を上ってくるビワマスに、これからも永く応えられるように鈴鹿の森を大切にしたいものです。
執筆:藤岡 康弘(滋賀県立琵琶湖博物館特別研究員)
ビワマスの産卵行動(渋川)