ふんどし姿の若者が高さ3mの梁につるされた「まゆ玉」を奪い合う西市辺裸まつりは、毎年1月上旬の夜に法徳寺薬師堂(市辺町)で行われます。
このまつりは、西市辺の若宮神社と薬師堂で行われる正月の宮座行事の一つで、まゆ玉を取った者は、その年の良縁に恵まれると伝えられています。鎌倉時代から続くこの伝統行事は、滋賀県選択無形民俗文化財、東近江市指定無形民俗文化財になっています。
午後7時過ぎになると羽織はかま姿の「若連中」と呼ばれる35歳までの若者が本尊前にさい銭を投じて入堂し、一同が座につくと酒式(しゅうし)が始まります。その後、独特の節回しの「謡い(うたい)」を声にしながら古式ゆかしく儀式が進みます。太鼓の合図で一斉に着物を脱ぎ捨てふんどし姿になった若連中は、「チョウチャイ、チョウチャイ(頂礼、頂礼)」の掛け声とともに、エゴノキ(別名、長命の木)の枝に餅をつけた「まゆ玉」を奪い合います。エゴノキはエゴ科の白雲木(ハクウンボク)で、6月に花が咲き、たくさんの実がなり種を落とします。このことから子宝に恵まれ、子孫繁栄につながる祝いの木とされました。木の枝に大小の餅をつけ餅花(蚕のまゆに似ていることから「まゆ玉」と呼ばれる)として薬師如来に奉納されます。
まゆ玉の争奪が始まると、仲間の肩に乗り梁によじ登ろうとしたり、よじ登った人を引きずり落としたりといった激しい攻防が繰り広げられ、堂内は厳寒をも忘れさせるような熱気に包まれます。
まゆ玉の木が下ろされると、若連中が信者の皆さん一人一人の祈祷を読み上げ、祈願の踊りを奉納します。
毎年メンバー入替制により構成される西市辺裸まつり保存会は、祈祷用の護摩木やお守りの準備をしたり、まつりのPRに努めたりしています。令和元年度会長の小菅吉雄さん(こすが よしお・市辺町)は、「このまつりは、町内の安全や五穀豊穣、信心する皆さんの無病息災や家内安全など、願い事の成就を祈願して行われ、若い衆がいてこそ続けられます。地元に住む若者が減少するなかでも、自分たちで準備段階から積極的に参画してくれる若者や町内外の皆さんの支援によりこの伝統行事が続けられることに感謝しています」と話されます。
時代を超えて受け継がれてきた西市辺の伝統文化は、若者とそれを支える人々の手によって脈々と伝えられます。